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「雪→春」というお題をいただいて、某所で発表した小説に少し手を加え、題名をつけて公開します。季節感も重要なので、早めの公開になりました。 ========= あなたの手 「ティナは、まだ戻らないのか?」 夕闇が迫る野営地で、食事の支度をしているセリスに、エドガーは聞いた。 「え?戻ってない?……ほんとだわ」 薪を拾いに行ってもらってから、もう小一時間はたっている。万が一のモンスターとの遭遇に備えて、単独で行くのを止めようとしたのだが、本人の「だいじょうぶ、逃げるから」という言葉を信用して、一人で行かせてしまった。 確かにティナは、まるでかもしかのように足が速いし、いざ戦闘になれば、パーティーの中でも一、二をあらそうくらいの見事な剣さばきだった。 「この辺は、そんなに危ない魔物は出ねーと思うけどな。ほい、セリス、ジャガイモむけた」 「あ、ありがと。でもエドガー、探しに行ってくれる?……って、もういないわ」 セリスとロックは顔を見合わせて、笑ってしまった。 世界が崩壊してから、気象は常に不安定だった。 数日の間、降り続いた雪は今朝になってやみ、急激に気温が上昇した。積もっていた雪も、あちらこちらで地面が見えるくらいには溶けていた。 「ティナ!」 エドガーは名前を呼びながら、野原を探して歩く。 あまり野営地から離れたところには行っていないはずだ。エドガーが雪景色に目をこらすと、ピンク色のかたまりのようなものが見えた。 「ティナ!」 雪の中に、薄紅色のマントをまとったティナがうずくまっていた。怪我でもしているのかと、エドガーは顔色を失いながら彼女の元に駆けつけた。 「あ、エドガー」 脇に拾った薪の束を置いて、エドガーを見上げるティナには、どこも傷などなかった。 安堵と共に、彼女の隣にしゃがみ込む。 「あまり遅いから心配してしまったよ。どうしたの?」 「ごめんなさい。あの、これ……」 ティナは申し訳なさそうに言ってから、足もとの地面を指差した。 ティナの指の先には、植物の小さな芽が、黄緑色の頭をもたげていた。 「雪に埋もれて、寒そうだったから、雪を取りのけてあげてたの」 見ると、ティナの指は真っ赤にかじかんでいる。 エドガーは、その手を両手でとった。自分の体温を分けてやるように、ティナの冷えきった手を包みこむ。 「あのね、ティナ。植物には、自分の力で雪をはねのけて芽を出す元気があるんだよ」 「そうなの?」 「そうとも。じきに、ここにも春がくる。そうしたら雪はどんどん溶けて、他の植物達も一斉に芽吹き始めるんだよ」 「お花は?」 「うん、その次には花が咲くね。ティナの好きな花は何?」 世界崩壊以来、植物が芽吹くことも、花が咲くことも、もはやなかった。だから、今ティナが目にしているこの植物の芽は、奇跡のような存在だった。そして、エドガーが語る春も、今のこの世界には存在しない。でもそのことを分かっていながら、エドガーはティナに聞いた。 エドガーの質問に、ティナはしばらく考えてから答えた。 「ピンクのお花」 自分のお気に入りのマントと同じ色の答えに、エドガーは目を細めた。 「さあ、皆の所へ戻ろう」 「うん」 二人は立ち上がった。ティナの拾った薪を小脇に抱えて、エドガーはまたティナの手を取った。 「あの、エドガー」 「なんだい」 「エドガーの手、とてもあたたかいわ」 「ずっと握っていても良いよ」 ティナはニコ、と微笑んだ。エドガーも優しく微笑み返した。 世界は救われるのを待っている。 でも、こんな心休まるひとときが、彼らには必要だった。 終 |
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