陛下番日記

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help リーダーに追加 RSS エドティナ小説2

<<   作成日時 : 2008/02/22 20:03   >>

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「雪→春」というお題をいただいて、某所で発表した小説に少し手を加え、題名をつけて公開します。季節感も重要なので、早めの公開になりました。

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あなたの手

「ティナは、まだ戻らないのか?」
 夕闇が迫る野営地で、食事の支度をしているセリスに、エドガーは聞いた。
「え?戻ってない?……ほんとだわ」
 薪を拾いに行ってもらってから、もう小一時間はたっている。万が一のモンスターとの遭遇に備えて、単独で行くのを止めようとしたのだが、本人の「だいじょうぶ、逃げるから」という言葉を信用して、一人で行かせてしまった。
 確かにティナは、まるでかもしかのように足が速いし、いざ戦闘になれば、パーティーの中でも一、二をあらそうくらいの見事な剣さばきだった。
「この辺は、そんなに危ない魔物は出ねーと思うけどな。ほい、セリス、ジャガイモむけた」
「あ、ありがと。でもエドガー、探しに行ってくれる?……って、もういないわ」
 セリスとロックは顔を見合わせて、笑ってしまった。

 世界が崩壊してから、気象は常に不安定だった。
 数日の間、降り続いた雪は今朝になってやみ、急激に気温が上昇した。積もっていた雪も、あちらこちらで地面が見えるくらいには溶けていた。
「ティナ!」
 エドガーは名前を呼びながら、野原を探して歩く。
 あまり野営地から離れたところには行っていないはずだ。エドガーが雪景色に目をこらすと、ピンク色のかたまりのようなものが見えた。
「ティナ!」
 雪の中に、薄紅色のマントをまとったティナがうずくまっていた。怪我でもしているのかと、エドガーは顔色を失いながら彼女の元に駆けつけた。
「あ、エドガー」
 脇に拾った薪の束を置いて、エドガーを見上げるティナには、どこも傷などなかった。
 安堵と共に、彼女の隣にしゃがみ込む。
「あまり遅いから心配してしまったよ。どうしたの?」
「ごめんなさい。あの、これ……」
 ティナは申し訳なさそうに言ってから、足もとの地面を指差した。
ティナの指の先には、植物の小さな芽が、黄緑色の頭をもたげていた。
「雪に埋もれて、寒そうだったから、雪を取りのけてあげてたの」
 見ると、ティナの指は真っ赤にかじかんでいる。
 エドガーは、その手を両手でとった。自分の体温を分けてやるように、ティナの冷えきった手を包みこむ。
「あのね、ティナ。植物には、自分の力で雪をはねのけて芽を出す元気があるんだよ」
「そうなの?」
「そうとも。じきに、ここにも春がくる。そうしたら雪はどんどん溶けて、他の植物達も一斉に芽吹き始めるんだよ」
「お花は?」
「うん、その次には花が咲くね。ティナの好きな花は何?」
 世界崩壊以来、植物が芽吹くことも、花が咲くことも、もはやなかった。だから、今ティナが目にしているこの植物の芽は、奇跡のような存在だった。そして、エドガーが語る春も、今のこの世界には存在しない。でもそのことを分かっていながら、エドガーはティナに聞いた。
 エドガーの質問に、ティナはしばらく考えてから答えた。
「ピンクのお花」
 自分のお気に入りのマントと同じ色の答えに、エドガーは目を細めた。
「さあ、皆の所へ戻ろう」
「うん」
 二人は立ち上がった。ティナの拾った薪を小脇に抱えて、エドガーはまたティナの手を取った。
「あの、エドガー」
「なんだい」
「エドガーの手、とてもあたたかいわ」
「ずっと握っていても良いよ」
 ティナはニコ、と微笑んだ。エドガーも優しく微笑み返した。
 世界は救われるのを待っている。
 でも、こんな心休まるひとときが、彼らには必要だった。

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